1. はじめに:なぜ特定親族特別控除があなたの家計と企業実務を変えるのか
企業の経理・人事担当者の方、そして大学生のお子様を持つ親世代の皆様へ。
2025年の年末調整から適用される特定親族特別控除は、単なる税制の微修正ではありません。これは、19歳以上23歳未満の親族を持つ世帯の税負担を大きく軽減し、大学生のアルバイトにおける「年収の壁」の概念を実質的に書き換える新制度です。
「年収188万円まで控除が受けられる?」「社会保険の扶養とはどう違うの?」
本記事では、この新設される特定親族特別控除について、制度の概要から、年末調整・確定申告での申請方法、さらには社会保険(特定扶養親族)との複雑な関係性まで、実務上のポイントをわかりやすく解説します。
2. 特定親族特別控除とは?「188万円の壁」創設の衝撃
制度の基本要件と対象者
特定親族特別控除は、居住者と生計を一にする19歳以上23歳未満の親族に関する新しい扶養控除です。最大のポイントは、一般の扶養控除の基準を超えても、合計所得金額123万円以下(給与収入のみの場合は188万円以下)まで段階的に控除を受けられる点です。
・対象者: 19歳以上23歳未満の親族(大学1年生から4年生の標準的な年齢層)。
・所得要件: 合計所得金額が58万円超123万円以下(給与収入のみの場合、123万円超188万円以下)。
別居している大学生であっても、仕送りなどで生計を一にしていると認められれば対象となります。これは、実質的な大学生等のパート・アルバイトを奨励する施策と言えるでしょう。
控除額の計算方法:最大63万円の恩恵
特定親族特別控除額は最大63万円です。特定親族の合計所得金額が85万円以下までは、従来の特定扶養親族と同等の63万円の控除が受けられます。さらに、給与所得165万円までは一般の扶養控除(38万円)以上の控除が受けられるため、多くの大学生は「年収の壁」を気にせず働くことが可能になります。

3. 危険な落とし穴に注意! 特定扶養親族(社会保険)と税制の「二重の壁」を突破せよ
新制度の導入で、今、多くの親世代や企業担当者が混乱している点、それが税制上の優遇と社会保険上の負担の境界線です。どちらも「特定扶養親族」という似た言葉を使うため混同しがちですが、この二つの壁は、あなたの家計に与える影響が全く異なります。
年収188万円と150万円:二つの異なるゴールライン
まず、税制上の特定親族特別控除は、年収188万円未満まで段階的な控除を認めます。これは、親御様の所得税や住民税が軽くなるというメリットに直結します。
しかし、その手前にある、もう一つの重要な壁を見落としてはいけません。それが、社会保険の扶養認定基準です。2025年10月に基準が年収150万円未満に引き上げられましたが、このラインを超えると、お子様は親御様の健康保険から外れ、ご自身で保険料を支払う義務が発生します。
「税金の節約」と「保険料の出費」の損益分岐点
最も注意すべきは、お子様の年収がこの150万円を境に生じる、世帯全体での利益の変動です。
・150万円未満:親は税制上の控除を受けられ、子も社会保険料を負担しない、最高の経済的メリットが得られるゾーンです。
・150万円以上188万円未満:親の税金は安くなりますが、お子様は扶養から外れ、高額な社会保険料の自己負担が始まります。この出費が、税金で得られたメリットを上回り、結果的に世帯全体の手取りが減ってしまうという落とし穴が存在します。
したがって、この二つの壁の違いを正確に理解し、お子様のアルバイト収入を緻密に管理することが、この新制度を最大限に活かす最大のポイントなのです。
4. 企業の経理・人事担当者が押さえるべき年末調整の実務ポイント
2025年12月の年末調整は、新設の特定親族特別控除により大きく変わります。
申告書の確認ポイントと記載漏れを防ぐ手続き
従業員から提出を受ける「基礎控除申告書」に、新たに「給与所得者の特定親族特別控除申告書」が追加されます。手続きを順序立ててミスを防ぐためのチェックリストです。
1.【周知徹底】:一般的に特定親族を有する可能性が高い40代〜60代の職員に、制度概要を前もって周知します。
2.【申告書の確認】:「特定親族特別控除申告書」の提出を受け、扶養控除等申告書の「特定親族」にチェックがあるか確認します。
3.【最重要チェック】:特定親族の生年月日(平成15年1月2日〜平成19年1月1日生まで)と、特定親族の本年中の合計所得金額の見積額(58万円超 123万円以下)に誤りがないか厳重に確認してください。
控除額の計算と課題を解決するサービス
控除額の計算には、国税庁HPでダウンロードできる「年末調整計算シート(令和7年用)」の活用が有効です。これは課題を解決するサービスとして非常に便利で、人数を入力するだけで控除額が自動計算されます。
視覚的な要素の追加として、従業員への説明資料には、国税庁提供の速算表を盛り込み、控除額の根拠を明確に示しましょう。

5. 失敗しやすいポイント:社会保険の非該当届と早生まれの注意点
新制度導入に伴い、特に注意すべき失敗しやすいポイントを解説します。
失敗しやすいポイント1:社会保険の非該当届の申告漏れ
大学生の子供の年収が150万円を超えた場合、社会保険上は扶養から外れます。このとき、親(従業員)は被扶養者の削除(非該当)の届出を速やかに行う必要があります。年末調整の特定親族特別控除の申告と連動する事柄なので、併せて周知を行うことが重要です。
失敗しやすいポイント2:早生まれによる適用外リスク
残念ながら、1〜3月生まれの早生まれの方は不利になる可能性があります。
・18歳(早生まれ):大学生であっても19歳未満のため、特定親族特別控除の対象外(38万円の扶養控除が適用)。
・22歳(早生まれ):大学を卒業し就職すると、年収が188万円を超える可能性が高く、特定親族特別控除の対象外となります。
現状、これらの早生まれの方への救済措置は設けられていないため、対象者の生年月日を正確に把握する必要があります。
6. 確定申告での特定親族特別控除の申請方法:フリーランス・個人事業主の方へ
会社員でも副業収入がある場合や、自営業の方(フリーランス・個人事業主)は、確定申告で特定親族特別控除を申請します。
手続きを順序立てて:必要書類の準備
1.【所得証明】:特定親族の源泉徴収票(アルバイト先発行)が最も確実です。複数ある場合はすべて準備します。
2.【生計証明】:別居の場合は、仕送りの記録(通帳コピー等)を準備。提出は不要ですが、税務署からの確認に備え5年間保管が必要です。
e-Taxでの入力ポイント
e-Taxを利用する場合、「所得控除の入力」画面で「特定親族特別控除」を選択し、対象者の情報を入力します。
最も注意すべきは、特定親族のマイナンバーの正確な入力です。番号違いがあると控除が無効になる可能性があるため、慎重に入力してください。給与以外の収入がある場合は、合計所得金額を自分で計算して入力する必要があります。

7. 特定親族特別控除についてよくある質問(FAQ)
Q1. 特定親族特別控除で所得税・住民税はどうなりますか?
A. 控除額が年間の所得から差し引かれるため、所得税・住民税両方の減税効果があります。
例えば、親の所得税率が20%の場合、63万円の控除で所得税は12.6万円、住民税は一律10%で6.3万円の減税となり、合計約18.9万円の節税につながります。
Q2. 夫婦共働きの場合、どちらが特定親族特別控除を申請すべきですか?
A. 原則として、所得の高い方(税率の高い方)が申請した方が、節税効果は大きくなります。ただし、税法上は「生計を主に維持している方」が申請すべきとされているため、実際の生活費負担を考慮し、必ずどちらか一方のみが申請してください。
Q3. 年末調整で申告し忘れた場合、どうすればいいですか?
A. 確定申告で還付申告が可能です。申告を忘れても、翌年2月16日から3月15日の確定申告期間中に申請できます。還付申告は5年間有効なため、過去の申告漏れも遡って修正できます。e-Taxを利用すれば、自宅から簡単に申請できます。
8. まとめ:特定親族特別控除を活かして賢く家計を改善
特定親族特別控除は、2025年の年末調整から適用される非常に重要な税制改正です。
企業の経理・人事担当者は、新様式の申告書や特定親族の所得金額見積もりなど、実務上のポイントを理解し、国税庁の計算シートなどの課題を解決するサービスを活用してミスを防ぎましょう。
大学生の子供を持つ親世代は、年収188万円までの控除と、社会保険の扶養認定基準(150万円未満)の二つの壁を正しく理解し、子供の働き方をサポートすることで、最大限の節税効果を得られます。
この新制度を理解し、正しく申請方法を実行することが、税負担の軽減に直結します。



