社長のゼロ給与のメリットとデメリットは? リスクを把握して役員の報酬を検討しよう

新しい事業を始める際、社長の給与についていくらが適切か、頭を抱える人は多いのではないでしょうか。
新規の立ち上げ時には事業が安定する保証もないので、自身が社長である場合、一時的に給与を受け取らない選択を検討する人も少なくありません。社長の給与をゼロにすることは企業にとってメリットがありますが、同時に個人的なデメリットも生じる可能性があります。

社長の報酬をゼロにすることに伴うリスクを理解し、適切な役員報酬を決定しましょう。この記事では、社長の報酬を削減することの利点や欠点、そして報酬の決定方法について説明します。

役員報酬をゼロにすることは問題なし

会社の役員は給与所得者に該当しますが、労働基準法では労働者には該当しないため、通常の会社員とは異なり、報酬をゼロにすることは問題ありません。社長の場合も、同様に役員としての立場に応じて給料をゼロにすることは可能です。まず、役員報酬と給料の違い、および役員報酬をゼロにすることに伴うリスクについて説明します。

正しく理解してますか? 役員報酬と給料の違い

会社が支払うものであっても、役員報酬と給与は異なるものです。役員報酬は、取締役や監査役などの役員に支給される報酬であり、給料は雇用契約を結んでいる社員に対して、労働の対価として支払う報酬です。

原則として、役員報酬と給与は同時に受け取ることはできません。社長が役員として収入を得る場合、その収入源は主に役員報酬である為、社長が自身の収入をゼロにすることは事実上可能となります。

役員報酬は健全に経営ができているバロメーターになる

起業初期であっても、社長の収入源である役員報酬をゼロにすることはおすすめしません。社長は企業経営を指導し、事業の成果に対する報酬を受け取る権利があります。

社長の給料をゼロにしても、それだけでは必ずしも健全な経営状態を意味しません。また、報酬をゼロにすることは社長自身にも大きなデメリットが伴います。役員報酬は社員の給与と異なり、後から簡単に変更できないため、軽率にゼロにすることは避けるべきです。

社長の給料をゼロにするメリット


社長の給料である役員報酬をゼロにする場合、経営面や個人の税金に対していくつかのメリットが考えられます。では、具体的にはどのようなメリットがあるのでしょうか。

会社の収益を増やすことが出来る

役員報酬は会社の資金から支払われるため、役員報酬をゼロにすることは、会社の収益を増やす方法の一つです。このアプローチは、企業が資金を再投資し、成長や運営の安定性を向上させるために採用されることがあります。ただし、役員報酬を減額またはゼロにする際には、法的および経営面での検討が必要であり、社会保障や法的規制に準拠することも大切です。

新規事業を始めた場合、収益が計画通りに上がらず、赤字になることもあるでしょう。そのような状況でも、設定した役員報酬は月々支払わなければなりません。

しかしながら、役員報酬の継続的な支払いが経営にますます圧力をかける要因になる場合もあります。そのリスクを回避し、経営の安定を確保するため、社長が役員報酬をゼロにする選択肢を選ぶこともあります。

また、経営が赤字である場合、銀行からの信頼を失い、融資条件が不利になる可能性があることも考慮されます。資金繰りを安定させることが最優先とされ、役員報酬をゼロにして会社の収益を増やすことを試みるケースも存在します。

社長個人の税金や社会保険料の負担を低く抑えられる

社長個人にとってのメリットは、税金や社会保険料の負担を軽減できることです。所得税、住民税、健康保険、年金などは、収入に応じて支払う金額が変動する仕組みです。したがって、高額な収入を得ると、支払う税金や社会保険料も増加し、手取り収入が予想よりも少なくなることがよくあります。

しかし、社長個人の収入を減らすことで、税金や社会保険料の負担を削減できるため、節税を目的に役員報酬をゼロにする選択をすると考える選択もあります。

赤字決算におちいってしまった際に株主に対して誠意を見せることが出来る

創業時にはあまり関係ありませんが、役員報酬をゼロにすることは株主に対して誠意を示すメリットも存在します。

将来、会社が成長し上場すると、多くの株主が関与する可能性があります。もし事業が失敗し、大きな赤字を出す状況に陥れば、株主に対して適切な対応をとる必要があります。深刻な状況であれば、役員報酬をゼロにして、誠意を示す取り組みを行うことも考えられます。

株主に誠意を示す際、一般的には役員報酬の減額が選択肢として多く採用されます。しかし、報酬をなしにすることで、経営の立て直しに真剣に取り組む意志を強調し、多くの株主を納得させる可能性が高まります。このような姿勢は、株主に対する信頼を築くのに役立つでしょう。

社長の給料をゼロにするデメリット

社長の給料をゼロにすることにはデメリットも存在するため、判断を下す前に以下のデメリットを検討し、慎重に判断することが必要です。

社会保険に加入できないケースがある

役員報酬をゼロにした場合、社長は健康保険や厚生年金などの社会保険に加入する資格を失う可能性があります。社会保険は代表取締役や取締役などの役員にも適用されますが、その加入条件は法人から労務の対価として報酬を受けていることを前提としています。言い換えれば、役員報酬がゼロになると、労務に対する報酬を受けていないと見なされ、社会保険の加入条件を満たさない可能性があるということです。この点についても注意が必要です。

この場合、社長は個人事業主と同様に国民健康保険と国民年金に加入する必要が生じます。一般的に、社会保険の保険料は会社が半分を負担するため、全額個人で支払う国民健康保険や国民年金に比べて負担が軽減される可能性があります。そのため、社会保険に加入できなくなることはデメリットと言えます。社会保険に加入できない場合、個別の健康保険や年金の負担を個人で負担しなければなりません。したがって、この選択肢を検討する際には、社会保険との比較を行い、個人にとって最適な選択を行うことが重要です。

総合的に考えると節税にならない場合がある

給料をゼロにすることで節税を期待する社長も存在しますが、必ずしもトータルで節税になるわけではありません。役員報酬をゼロにすることによって会社の収益が増加する一方、それに伴って会社が支払う法人税などの税金も増加する可能性があります。

法人は、企業活動から得た所得に対して法人税が課せられるため、法人の所得が多いほど支払う税金も高くなる仕組みです。実際、会社の収益によっては、個人が支払う税金よりも法人税などの金額の方が高くなる場合もあります。この点を踏まえて、役員報酬を設定する際には、経済的な影響を総合的に評価することが重要です。

起業初期には、社長が単独で経営していることが一般的です。法人に課せられる税金であっても、社長個人がその負担を担当するため、法人税の増加は逆に大きなデメリットとなることが考えられます。このような状況では、税金負担を最小限に抑えるための戦略が重要となります。

金融機関や取引先の信用されなくなってしまう

社長の給料をゼロにすることは、金融機関や取引先からの信用に影響を与えることもある点に留意が必要です。たとえば、金融機関から融資を受ける際には通常、決算書を提示する必要があります。この際、役員報酬がゼロとされていると、銀行担当者は「どのように生活しているのか」と疑念を抱く可能性があるかもしれません。したがって、社長の報酬に関する決定は、金融機関やビジネスパートナーとの信頼関係にも影響を与えることを考慮するべきです。

不動産収益や配偶者の給与収入など、企業経営以外の収入がある場合、それを明確に説明することで、金融機関や取引先からの信頼を高め、納得してもらえる可能性が高くなります。しかし、他の収入があることを証明できない場合、融資を拒否されたり、融資額が予定よりも大幅に削減される可能性があることに注意が必要です。したがって、収入や資金状況について透明かつ的確に説明し、信頼を築くことが重要です。

取引先は信頼性のある会社と取引を望むことが一般的であり、一定の規模の取引を行う際には信用調査会社の評価を活用して信用力を判断することが多いです。評価は様々な要素を考慮しますが、役員報酬もその評価基準の一部となることがあります。したがって、役員報酬がゼロであるか、極端に少ない場合、取引先からの信頼を得にくくなる可能性があることに留意すべきです。信用調査会社の評価基準に合致するような経営戦略を検討し、信頼性を高めることが重要です。

社長の給料を決める方法や時期はいつ?

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社長の給料をゼロにすることのデメリットを強く感じた場合、会社設立時に役員報酬をしっかりと決定することが重要です。以下では、社長の給料を決定する際のタイミングや方法について説明します。

起業1年目は会社設立から3カ月以内に決めなくてはならない

起業して最初の年において、会社設立から3カ月以内に役員報酬の額を決定することが必要です。この期限が設けられている理由は、早期といわれる時期に役員報酬を経費として認識し、損金として計上するためです。

一度役員報酬の金額が決定されると、通常、1年間は固定されます。ただし、事業年度ごとに金額を変更することが可能です。ただし、金額を変更できるのは、事業年度が開始してから3カ月以内の期間に限られるため、変更は頻繁に行えるわけではありません。

役員報酬の金額に応じて、毎月支払う税金や社会保険料が変わることに留意が必要です。金額は1年後に変更できることから、創業時から慎重に検討し、安易に設定しないことが大切です。

定款・株式総会の決議で決定する

会社法に基づき、役員報酬は通常、定款に記載するか、株式総会の決議によって決められます。特に小規模の法人や中小企業では、役員報酬に関して定款に明記されていないことが一般的です。また、定款に記載されていても、多くの場合、具体的な金額や決定方法については「株式総会で決める」という規定が含まれていることがあります。そのため、株式総会を開催し、役員報酬に関する決定を行うプロセスが一般的です。

役員報酬の決定方法は様々で、株式総会で個々の金額が決まる場合もあれば、役員報酬の総額だけが株式総会で決まり、その内訳は取締役会や取締役の判断に委ねられるケースもあります。どの方法を採用するにせよ、役員報酬に関する決定プロセスは透明かつ適切に記録されるべきです。

特に、税務調査や監査に対応するために、議事録の作成と保存は非常に重要です。これにより、役員報酬の決定プロセスや根拠が文書化され、調査機関や関係者に対して説明可能となります。透明性を維持し、法的および税務の要件を満たすために、正確な記録と文書化が不可欠です。

賞与は届け出が必要となる

社長や役員に賞与を支給することは可能ですが、賞与を支給したい場合には、事業年度が開始してから2カ月以内に税務署へその旨を届け出る必要があります。この期限を守ることが重要で、適切な手続きを行うことで賞与支給に関連する税務上の義務を履行できます。賞与支給に関する法的な要件や期限については、税務署の指針に従うことが必要です。

役員報酬は、事業年度で定められた金額を一定の条件を満たして毎月支給する場合、経費として計上することが可能です。ただし、賞与については、事前に支給する意向を税務署へ届け出ていない場合、損金として計上することができません。税務上の規則に従い、必要な手続きと申告を行うことで、役員報酬および賞与の税務処理を適切に行うことが重要です。

役員報酬を経費として計上することは、法人の所得を減らすため、法人税の削減につながります。一方で、突発的な賞与を支給することは、役員にとって好都合かもしれませんが、節税の観点からはデメリットがあります。

節税のメリットを最大限に享受するためには、賞与を支給する意向を税務署へ事前に届け出ておくことが必要です。この手続きを怠らず、法的な要件を遵守することで、節税効果を最適化できます。

社長の給料を決めるポイント

社長の給与を決める場合、自己と会社の両方に負担をかけない金額を考慮する必要があります。以下は、社長の給与設定に際して意識すべきポイントです。

毎月の粗利や固定費を予想してから決める

役員報酬は通常1年間変更できないため、過度な金額の設定は会社の資金繰りに悪影響を及ぼす可能性があります。この問題を回避するためには、毎月の粗利と固定費を考慮して報酬を設定することが重要です。適切な報酬設定により、資金繰りの安定性を維持し、会社の健全な運営をサポートできます。

最初に、1年間の売上高から仕入れコストを差し引いた粗利を予測します。同時に、オフィスの家賃や従業員の給与などの固定費がどれほどかを見積もります。このおおまかな粗利と固定費の予測は、役員報酬を設定する際に、会社の負担を最小限に抑えつつ適切な金額を考えるのに役立ちます。

個人と会社が支払う税金を考慮し全体で判断しよう

社長の給与を検討する際、個人と会社の税金負担のバランスを考慮することが重要です。法人としての会社には法人税、地方法人税、法人住民税、法人事業税など多くの税金が課せられます。会社の収益が増加すると、これらの税金の額も増えるため、役員報酬を増やすことにより、個人の所得を減少させることで税金を削減できる可能性があります。税金と報酬のバランスを検討することで、最適な給与設定が可能となります。

一方、個人の所得に関連する所得税、住民税、および社会保険料などは増加する可能性があります。片方の税金が過度に負担とならないよう、個人と会社の納税額をシミュレーションして検討することが肝要です。バランスを取りながら最適な給与額を決定することが、給与設定の成功の鍵となります。

同業他社と比べてみよう

同業他社や同じ規模の会社と比較することも重要です。社長の給与が同業他社や同じ規模の企業よりも極端に高い場合、これが不相当と判断され、損金計上が認められない可能性があります。適正な報酬を設定し、業界標準と競争力を考慮することで、税務上の問題を回避し、給与設定を合理的に保つことができます。

同業他社や業界の一般的な報酬水準に合致しない極端な金額は、業界内や世間からの評判に悪影響を及ぼす可能性があるため、避けた方が賢明です。不相当な給与水準を避け、業界標準に合致した報酬を設定することで、企業の信頼性を高め、税務上のリスクを減らすことができます。同業他社との比較を通じて適切な給与額を検討しましょう。

社長の給料の変更や減額が必要となるケース

低コスト
役員報酬は通常、事業年度が開始してから3カ月以内に変更できる唯一の機会です。しかし、特定の例外が存在します。事業年度の途中であっても、以下の2つのケースに該当する場合、株主総会や取締役会を開催して社長の給与を変更または減額することができます。

役員の地位や職務の変更

経営を進める過程で、役員の地位や職務が変更されることがあります。例えば、退任した役員の職務を引き継ぐ、新たな責任を担う、または仕事の量が増加する場合、役員報酬の見直しや増額の検討が必要です。社長から会長に役職が変わる場合や、会長を兼任する場合も、報酬の再評価が要求されます。変更された職務や責任に合致するように、役員報酬を適切に調整することが重要です。

ただし、肩書きが変更されても職務内容に実質的な変化がない場合、これは不正な変更とみなされ、税務署などから問題が発生する可能性があるため、慎重に対応する必要があります。経営体制が確実に変化する場合には、役員報酬の変更を検討し、適切な手続きを踏むことが重要です。

資金繰りや経営状況の悪化

会社の財務状況や経営状況が著しく悪化した場合、社長の給料を減額することは可能です。ただし、具体的な減額の基準やルールは一律に定められておらず、状況に応じて判断されることが一般的です。経営の悪化が社員、株主、取引先などの関係者に影響を及ぼす可能性がある場合に、役員報酬の減額が検討されることがあります。給料の減額は、経営状況に合わせて柔軟に調整される一つの手段と言えます。

業績や財務状況が悪化し、株主との信頼関係が損なわれる可能性がある場合、経営者としての責任を果たすために報酬の減額は避けられない一つの手段です。経営状況の改善や借入金の返済リスケジュール、世界情勢の影響で業績の悪化を回避する必要がある際、減額は経営の健全性を維持するために検討されることがあります。給与の減額は、経営の安定と関係者への信頼を保つためにとられる戦略の一部と言えます。

まとめ

社長の給料である役員報酬をゼロにすることは法的に可能ですが、その決定には慎重に考慮する必要があります。ゼロにすることによるデメリットとして、社会保険への加入資格の喪失や法人税などの増税が挙げられます。給与を設定する際には、会社の財政状況、個人の税務計画、将来の資金ニーズなどを考慮し、バランスを取ることが大切です。

役員報酬を過度に削ることは、経営が安定していない印象を与える可能性があり、信頼を失う恐れもあります。適切な役員報酬を設定し、経営の安定性と資金計画を考慮しながら、会社の成長と社長の経済的な安定を両立させることが理想的です。
この記事を参考に、ぜひ適正の役員報酬を決定してみてください。

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